出典:バージニア・リー・バートン『ちいさいおうち』/岩波書店
みなさん、こんにちは。
絵本ソムリエのニコパパです。
今日は、絵本『ちいさいおうち』のご紹介です。
主人公である「ちいさいおうち」と、そのまわりの変化していく様子を描いた1冊。
忘れていた豊かさ。
見失っていた、本当に大切なもの。
そんなことを思い出させてくれる、美しい名作絵本です。
絵本『ちいさいおうち』の情報
著者: バージニア・リー・バートン/作 石井 桃子/訳
出版社:岩波書店
出版年:1954年4月
ページ数:44ページ
おすすめ対象年齢:5歳、6歳、大人向け
読み聞かせ:4歳から
絵本『ちいさいおうち』のあらすじ
昔々、静かな田舎にきれいで丈夫な、小さいおうちがありました。
リンゴの木に白いヒナギク。
豊かな自然にかこまれて、季節の移ろいを楽しみながら。
「まちにすんだらどんな気持ちがするものだろう」
時折、遠くの街の明かりを見ては思いを馳せます。
そうして長い間、小さいおうちは丘の上からまわりの景色を眺め、幸せに暮らしていました。
ところがある日、馬の引っ張っていない車が現れました。
それからまわりに工場がたち、にぎやかな街になり、どんどん開発が進み、両側に高層ビルが建ち……
それでも小さいおうちは、変わらずにそこにありました。
だけどペンキは剥げ、窓は壊れ、もうボロボロです……
小さいおうちは、すっかりしょんぼりしてしまいました。
するとある春の朝、小さいおうちの前を通りかかった女の人が立ち止まり、振り返ると……
そこから小さいおうちの物語は大きく動きだします。
絵本『ちいさいおうち』の内容と感想
主人公である、ちいさいおうちの主観で語られる物語。
最初から最後まで全編を通じて、ずっと小さいおうちを中心にした構図で描かれています。
その定点観測のような描き方で、小さいおうちの周辺の変化がわかりやすいですね。
前半はのどかな田舎の季節の移ろいや、美しい自然の風景。
途中から急速に発展する街の様子に、それとともに失われていく懐かしい景色。
大きなビルに挟まれて空のほとんど見えない窮屈で息苦しさすら覚えてしまいます。
「もういつ春がきて、夏がきたのか、いつが秋で、いつが秋なのかわかりません」
「お日さまがみえるのは、お昼のときだけでした。そして、夜はお月さまも星もみえません」
そんな小さいおうちの言葉が印象的です。
生きてるとつい、刺激を求めてしまうから。
当たり前の毎日に退屈してしまうけど。
だけどそんな退屈さにこそ大切なものがあるような気がします。
毎日同じようでいて少しずつ違う日々。
当たり前なようでいて特別な日常。
なんだか、見失っていたものや忘れていたことを思い出させてくれるような優しい1冊です。
ぜひ、子どもにも大人にも読んでほしい作品。
絵本としては少し長めの44ページながら、長さを感じさせない構成。
原著は1942年に描かれ、1952年にはウォルト・ディズニー・カンパニーによって短編アニメ映画が製作されています。
発行部数121万部のミリオンセラー作品*1。
本当にゆったりとした温かい気持ちさせてくれる名作絵本です。
受賞歴
・コールデコット賞
探していたものはいつだってすぐそばに
ぼくたちは、今の自分にないものに憧れてしまいます。
ここではないどこかに幸せを求めてしまいます。
与えられているものの価値もわからずに。
すぐそばになる幸せに気がつかずに。
今ない「何か」や、ここではない「どこか」
それはすごく魅力的に映ってしまうものだから。
だけど街に憧れたちいさなおうちのように、そこに求めていたものはみつからなくて。
「求めていたものははじめからあったんだ」
「大切なものはずっとすぐそばにあったんだ」
そんなふうに、失ってから気がつくことになってしまうけど。
なんだか遠回りなようだけど、経験したからこそ、離れたからこそわかることもあって。
だからこそ、もう手放さないように大切にしたいよね。
ちいさいおうちみたいに、本当にほしかったものに気がついたんだから。
まわりにあるものも、近くにいる人たちも。
すぐに「当たり前」になってしまうけど。
つい「当たり前」になって見落としてしまいそうな、その中にこそ「幸せ」ってあるんじゃないのかな。
以上、忘れていた「豊かさ」を思い出させてくれる名作絵本『ちいさいおうち』のご紹介でした。
おしまい。
*1:トーハン「ミリオンぶっく2018年版」のデータを元に記載しています。
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