出典:バージニア・リー・バートン『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』/福音館書店
みなさん、こんにちは。
絵本ソムリエのニコパパです。
今日は、絵本『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』のご紹介です。
お騒がせ機関車「ちゅうちゅう」による迫力満点の暴走劇。
全編モノクロで描かれながらも、疾走感あふれる1冊です。
子どもたちが大好きな、乗り物絵本の定番作品。
世界中で愛されるロングセラー絵本です。
絵本『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』の情報
『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』のあらすじ
小さな蒸気機関車の、ちゅうちゅう。
真っ黒でピカピカ、きれいで可愛い機関車です。
ちゅうちゅうはいつも、人や手紙をいっぱい積んで行ったり来たり。
町から町へ、駅から駅へ、走ってはまだ戻り。
トンネルを抜け、跳ね橋を渡り、今日も荷物を運びます。
そんなある日、ちゅうちゅうは考えました。
もうあの重い客車なんか引くのはごめんだ。
ひとりならもっとはやく走れるし、みんなも私だけをみてくれるのに……
次の日、ひとりきりになった隙に勝手に走り出しまいました。
「ちゅうちゅう、しゅっしゅっ!」
信号も踏切も無視して走っていきます。
牛や馬も、にわとりも人も、みんな驚き、たちまちパニックです。
跳ね橋を飛び越え、大きな駅の操車場を突っ切っります。
迷惑を考えず走るちゅうちゅうに、みんなは怒り心頭。
そんなことお構いなしに、町を抜けて田舎へ走っていくちゅうちゅう。
暗くなって道もわからず、石炭も水も少なくなりました。
そして、もう何年も使っていない古い線路に迷い込んで、とうとう止まってしまいます。
そこに迎えに来てくれたのは、最新式の汽車にのった機関士たちでした。
出典:バージニア・リー・バートン『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』/福音館書店
絵本『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』の内容と感想
福音館書店「世界傑作絵本シリーズ・アメリカの絵本」の1冊。
全編モノクロで描かれたイラストは、ダイナミックでスピード感たっぷり!
文章が線路のように波形に配置されていたり、話の内容や絵に合わせて形が変わります。
そんな遊び心を感じるポイントも、この絵本のみどころのひとつ。
迫力満点で機関車絵本の定番作。
はた迷惑な暴走機関車「ちゅうちゅう」の物語です。
「繰り返しの毎日なんてもう嫌だ」
「もっと自由に走ったみたい」
そんな、ふと頭をよぎった思い。
一度考えてしまったら、そう簡単には自分をごまかせません。
そこからはじめる、ちゅうちゅうの暴走劇。
いたずら心とは少し違うし、本人に悪気はないんですよね。
「自分はひとりで何でもできる」
「もっと自分に注目してほしい」
そんな子どもらしい一面もみえて、読む人の共感を呼ぶのではないでしょうか。
結局、最後はどうしようもなくなって、困ったところを助けられるのも子どもらしい。
機関士のジムが、機関助士のオーリー、車掌さんのアーチボルト。
大切に思って、心配してくれる人たちがいるんだから、あまり迷惑かけちゃダメだよね。
絵本としてはやや長めながらも、グイグイ引き込まれて飽きさせません。
発行部数は138万部*1。
ずっと読み継がれていくロングセラーの1冊です。
受賞歴
- 全国学校図書館協議会選定「必読図書」
- 全国学校図書館協議会選定「基本図書」
- サンケイ児童出版文化賞推薦図書
- 厚生省中央児童福祉審議会推薦図書
逃げた先に楽園なんてない
大人になって読み返すと、感じ方が変わる絵本というのがけっこうあって。
『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』も、そんな1冊でした。
「わたしは、もう にげだしたり しません。にげても、あまり おもしろいことは ないんですもの」
物語の最後、家に変える途中にちゅうちゅうが言った言葉です。
子どものころは、ただワクワクする絵本という記憶しかなかったんだけどね。
大人になって読み返して、ぼくはこの言葉に共感を覚えました。
どうしてかな、ぼくたちはつい逃げた先に楽しいことがあると考えてしまいがち。
ここではないところに、自分の求めているものがあると錯覚してしまう。
でもね、嫌なことから逃げだしても、そこに楽園なんてありはしなくて。
言い訳して、格好つけて、投げだしているだけでは何も変わらないから。
いろんな人に迷惑や心配をかけていることにも気づかずに。
結局「どこか」や「誰か」に居場所を求めるのは、現実逃避でしかないのかな。
それは夢をみるな、とか、妥協しろってことではなくてね。
どんなことでも、つらいことや嫌なところはあるものだから。
そこから逃げて、目をそらしているだけでは、ずっと逃げ続けることになってしまいます。
ぼくたちは自分の生き方を選べるし、何かを犠牲にせずとも幸せになることができるんです。
だけどね、そこにもきっと不満や問題がないわけではないはずだから。
完ぺきなものなんてないんだからさ。
それを受け入れて、折り合いをつけるのが「生きる」ってことなんじゃないのかな。
以上、ロングセラーの乗り物絵本 疾走感あふれる名作『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』のご紹介でした。
おしまい。
*1:トーハン「ミリオンぶっく2018年版」のデータを元に記載しています。
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